「バグダッド・カフェ」といえば給水タンク、給水タンクといえば「バグダッド・カフェ」を思い浮かべるくらい、パーシー・アドロン監督のこの作品で、給水タンクは見る者に「バグダッド・カフェ」のビジュアルイメージを植え付けた。
ところはアメリカ、ラスベガスに近いモハーベ砂漠。ハイウェイ沿いに一軒のカフェ(モーテル、ガソリンスタンドも兼業)がある。 その名は「バグダッド・カフェ」 ギスギスした黒人の女主人ブレンダはいつもイライラしている。周りの者があまりにもやる気がないからだ。 しかし、「バグダッド・カフェ」は成りたっている。砂漠の中で競合相手がないという理由で。 そんなさびれかけのカフェに、ある時謎のドイツ人が一人で荷物を引き引きやって来る。 彼女の名はジャスミン。アメリカを旅行中、夫と喧嘩したあげく、砂漠の中でひとりになった。物語はここから始まる。 ジャスミンは「バグダッド・カフェ」のモーテルに泊まり、やがて根が生えたように居着いてしまう。崩壊寸前の店を放ってはおけなかった、というより彼女はもともと勤勉なたちなので、自分の居所をキレイにしたかったのだ。 カフェの事務所を始め、そこいら中を掃除しまくる彼女だが、その最たるターゲットが敷地の中にある大きな給水タンクだ。ジャスミンは梯子までかけて給水タンクをモップで磨き上げる。 この印象的なシーンは映画のスチールとなり、また大ヒットした主題歌“Calling You”を含むサントラ盤アルバムのジャケットにもなっている。 話は逸れるが、このテーマ曲“Calling You”は映画よりずっとヒットした。砂漠の中、ゆらゆら立ちのぼるかげろうとともに流れるハーモニカのメロディーは、原題「遙かローゼンハイムを離れて」にぴったりと、郷愁を誘う。 そして、室内に漂う繊細なグノーのアベ・マリアのピアノもいい。良き映画に良い音楽は付きもの、とはこのことだろう。 ところで、給水タンクだが、真っ青な空と対比するように黄色くペイントされ“BAGDAD CAFÉ”の大きな文字がアウトラインで描かれている。 この映画は砂漠を背景としているせいか、給水タンクに限らず、砂に転がるさまざまなモノがオブジェとしてチャーミングな効き味を出しているのだが、その中で一段と存在感のあるでっぷりした形のタンクは、まさに主人公ジャスミンのふくよかな姿と重なる。 よくよく映像を追っていくと、重要な場面の端々にタンクがおさまり、ただの小道具ではないことがわかるのだ。 「バグダッド・カフェ」における給水タンクとは何か? カサカサに乾いた女主人ブレンダの心を癒し、風化しそうなカフェやそこに居座る住人の心を潤し、砂漠を行き来する退屈なドライバーたちの心を満たしたのは、ジャスミン、そして彼女の行動に他ならない。 給水タンクは、人々が渇望していたものの象徴であるとともに、それをもたらした「すばらしいドイツ人」を表す“サイン”なのであった。 宮崎 桂(関東地区) バグダッド・カフェ 1987年 西ドイツ映画 監督:パーシー・アドロン(ミュンヘン出身) 原題:Out of Rosenheim アメリカ版、日本版の題名:BAGDAD CAFÉ *ドイツ人監督パーシー・アドロンがつくった「バグダッド・カフェ」は、ドイツとアメリカという視点で見るとおもしろいです。たとえば・・・ ・なぜ主人公ジャスミンはドイツ人なのか?きれい好きで勤勉なドイツ人がカフェを救った。 ・それに比べアメリカ人はやる気がない。カフェの黒人女主人を始め役者崩れの絵描きや入れ墨師女 などのアメリカ人の人種と描き方。 ・ギスギスの女主人とふくよかなジャスミンの対比。余裕が違うことを見せた。 ・ドイツとアメリカのコーヒーの違い。 ・アメリカのコーヒーマシーンはすぐ壊れるが、ドイツ製ポットはどこまでも優秀だ。 ・グノーのアベ・マリアは、もとは偉大なドイツの作曲家バッハの平均率クラビア第1番である。 ・ご当地ラスベガスのショーよりジャスミンのマジックショーの方が人気だ。あえてショービジネス の本場でドイツ人にマジックをさせた。 ・ドイツ人は友情に厚く、人を裏切らない。(ジャスミンはバグダッド・カフェに戻ってきた) などなど、おそらく「ジャスミン」という名前も「バグダッド」も何か隠された意味があると思います。
by sda-cinema-p
| 2010-07-22 16:49
| essey
| |||||||
ファン申請 |
||